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いつも暖かいものをくれる。私の心を癒してくれる。
そんな彼らが……私は好き。
ぬぐい去るもの
紅班のサバイバル演習。キバは赤丸と共に林の中を駆けていた。 理由は、紅からの攻撃を避け紅に一撃喰らわせること。シノとヒナタも、同様に逃げているはず。
正直に言ってしまえば、頭で考えて一撃なんて自分には合わない。姉とは違い自分は冷静な人間でない。 シノやヒナタとも違う。考えるくらいなら、そのまま突っ込んだ方がまだマシだ。けれど、紅がこう言った。
『ちゃんと考えて攻撃しなさい。』
この言葉に従わざるおえない。だって、自分たちはまだ下忍。先生の言葉はしっかり聞いておかなければ。けれど。
「……あいつだけは、違うんだろうな…。」
「くぅ〜ん?」
赤丸が心配そうに話し掛けてきた。いや、心配している。キバは一度、首をぶんぶん振る。 今はそんなことを心配している場合ではない。
「なんでもねぇよ、赤丸。……よっしゃ!紅先生に一発喰らわせるための作戦練ろうぜ!!」
「ワンワン!」
そう赤丸に話しかけ、その場にザッと止まった瞬間。背後に気配が…。
「そんなにうるさい声上げたら、バレるでしょ?キバ。」
「く、紅…先生…。」
次の瞬間、シノとヒナタは誰かの叫び声を聞いた。その後に、犬の鳴き声も聞いた。
サバイバルが終わり、班が解散される。その中、ヒナタは残って修行をすると告げた。 やはりな、と思う。最近のヒナタは遅くまで修行に明け暮れている。まるで、そうしなければいけないとでも言うように…。
「オレも残ろう。ヒナタ、修行に付き合おうか?」
「オレ達も一緒に修行するぜ。ヒナタ、ちょっと手合わせしてくれねぇか?」
「ワン!」
「い、いいよ…二人に悪いし。」
「そのようなことはない。なぜなら…それが、チームワークと言うものだ。」
「またその言葉かよ。」
キバが怪訝そうな顔をするのが見えた。何か変なことでも言ったのだろうか?オレは事実をいったまでだ。 ヒナタは未だにおろおろしている。それも、演技というやつか。しかし、いまはオレ達以外いないというのになぜ演技など…。 そう思い、くるっとあたりを見回す。そして分かる。ああ、あいつがいるせいか。 こちらから少し離れた木の上に、いる。独特の忍服を着た一人の男性。十中八九、日向一族の者。 見張りか…。本当にご苦労様だと思える。フッと鼻で笑ってやった。 その間に、キバに何度も言われたのだろう。ヒナタが不承不承頷いていた。
「よし!まずはオレからだ。行くぜ、ヒナタ!!」
そう言ってキバは構えをとる。仕方ないと思っているのだろう。ヒナタも構えた。 仕方ないと思っているはずなのに、本気なのだろうか。白眼を使っている。 赤丸は何もしていない。使わない気か。始めに動いたのはキバ。ヒナタに拳を繰り出す。ヒナタはそれを受け止め、柔拳で応戦する。 キバはそれをかわし、一旦間合いを取ってホルスターに手を突っ込み、クナイを投げる! ヒナタはクナイをかわしたと同時に、間合いを詰め柔拳でキバを狙う。
しばらく攻防を繰り返す。そしてついに、ヒナタはキバを蹴り飛ばすことに成功する。数メートル飛ばされるが、そこは男。 わずかな隙を残し、すぐ態勢を整える。しかしその隙につけこみ、一気に決めようとした途端。ポンと音がした。 態勢を整えたキバがニヤリと笑う。……キバ、お前は考えるの苦手だと言わなかったか?ヒナタは慌てて後ろを振り返るが、遅かった。
「後ろががら空きだぜ、ヒナタ。」
「あ、赤丸…キャッ!」
キバに変化した赤丸に背中を押され、ヒナタはバランスを崩して倒れこむ。その間にキバはホルスターからクナイを取り出した。 ヒナタの首筋にキバの持つクナイがかかる。勝負が終わった瞬間だ。出したクナイをしまいながら、キバはヒナタに言った。
「俺は赤丸を出さないとは言ってねぇぜ。」
「そ、そんな・・・。」
「確かに。キバは何も言っていない。今の勝負はヒナタの負けだ。」
ヒナタはしゅんとしているが、落ち込む暇は与えない方がいい。それではまた、自分を追い詰める。 赤丸を撫でながらキバが下がる。…互いに、都合のいいように行動出来るようになったな。
「落ち込んでいる暇はないぜ、ヒナタ。」
「次はオレだ。」
「ワン!」
ヒナタはパッと顔を上げ、毅然に言い放つ。
「はい。よろしくお願いします。」
手を振った。まわりはもう真っ暗。二人にも家庭がある。私は手を振った。 二人に。そして、任務後の紅先生に。私の挨拶は決まって、手を振ること。他は言葉だけ。 それ以上密接な関係をしてはいけなかった。父が、母が、一族が。それを許さない。 それを承知して一緒にいてくれる三人が凄く好き。そして、羨ましい。 きっと三人は、好きな人と一緒になって。好きな人と最期を飾ると思う。 それが出来ないのは、私。だからって、三人が憎いわけではない。憎いのは自分の一族。権力で縛り付ける馬鹿な一族。
「シノくんが鼻で笑ったって…気付いてるのかな?」
気付いてないね、きっと。キバくんも気付いているということも、気付いていない。
「あんなに分かりやすい監視って…そうそうないよね。」
今の私は冷たい私。三人しか知らない、本当の私。家の誰も知らない。父も母も、妹も従兄も。 日向を、父を恨んでいる私。力があるから落ちこぼれにした、忌まわしい一族に属さない…属したくない私。 復讐に燃える、暗く冷たい私。決して、暖かくはなれない私。 ふと、後ろを振り返る。しばらく前からこっちに近づいてくる人がいる。私が好きな人の一人。
「遅くなって悪かったわね、ヒナタ。行きましょうか?」
「はい。」
紅先生に付いて行く。今日は紅先生の家に泊めてもらう。…違うね。いつも泊まってる。 今の私は、少しだけ暖かい私。彼らがいれば、この暗い色は拭える。 一人だとぬぐえないこの感情も、彼らがいれば少し和らぐ。 一緒にいるだけでやさしい気持ちになれる。いつもの自分じゃないものになれる。 そんな風に導いてくれる三人が好き。離れたくない。もっと一緒にいたいと望むのは、当たり前の感情でしょ?
だから。だからね。
ぬぐい去ってほしいものがあるの。 それは、一族と自分の色。
完。
あとがき
こんにちは、空空汐様。一和数改め綜柳です。 HP開設に付き、大幅に変えてみました。そのせいか、前より駄文になったような気もしますが。 こちらのヒナタは黒いヒナタですおまけに、キバのシノも紅先生まで日向に関しては黒さを発揮します。 説明としましては、シノの鼻で笑ったところです。心情としては、「下忍に見つかるとは、馬鹿が。」みたいな感じです。 シノもキバも紅も、日向よりヒナタの方がずっと大事だと思っております。 ご、ごめんなさい。このような変なものになってしまいまして。 視点は微妙に切り替わってます。上からキバ、シノ、ヒナタです。紅先生の出番少なすぎた。
あとがき終わり
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