観月の宴 半年に一度、日向一族では観月の宴が設けられる。 もっとも、それは名ばかりで、実際には日向一族、そして、木の葉全体の動向について、 つぶさに話し合うのである。まるで自分達が木の葉を取り仕切っているかのように…。 当然ヒナタもその場所にいた。 すでに見捨てられているとはいえ、日向本家当主の長女である。 出席しない訳にはいかない。 (全く馬鹿馬鹿しい) ヒナタは心の中で舌打ちした。 今更一族の者に侮蔑の目で見られるのは一向に構わない。 そんなもので傷つくような柔な心は持ち合わせていないし、もう慣れた。 だが、こんな自分達が木の葉を取り仕切っていると言わんばかりの様子を見るのは、 気分が悪くて仕方なかった。勘違いも甚だしい。 『日向』があっての『木の葉』ではない。 『木の葉』あっての『日向』なのだ。 木の葉隠れの里というバックボーンがあるからこそ、 『日向』は名門でいられるのだ。 確かに日向は力ある一族かもしれない。 だが、今の甘えきった一族に他との競争に打ち勝って生き残ることはできない。 つまり、今『木の葉』から離れれば、『日向』に待ち受けるのは、 衰退、ただそれのみ。 それすら理解できず、驕り高ぶる、この愚かな一族。 その最たるものがこの宴だ。 これからの木の葉の行く末を話し合う?示す? 『名門』という地位に甘え、忍として牙を研ぐことも忘れたお前達がか? …全く愚かこの上ない。 ヒナタは再び心の中で舌打ちした。 そして、隣に座るハナビに「ちょっと風に当たってくる」と一声掛けると席を立った。 なぜなら、ヒナタにとって、こんな連中と同じ空気を吸うのは気分が悪くて仕方なかったからだ。 実態はどうあれ、さすが観月の宴が催されるだけのことはある。 空には美しい月が輝いていた。 先程のまでの気分の悪さはどこへやら、心が落ち着いていくのが分かった。 …しかし、それは長くは続かなかった。 そんなヒナタの時間を邪魔するかのように、一族の者がヒナタに声を掛けてきたのだ。 「おや、ヒナタ様。このような所で何を?」 それは一族でも上の立場に立つ者だった。 …一応は本家当主の長女であるヒナタに礼をつくしたように敬語を使ってはいたが、 目はヒナタを馬鹿にしていた。 (全く仮にも人の心を読むのに長けた日向一族なら、逆に人に心を読ませない ようにするのが然るべきでしょうに…ふん、一体どちらが馬鹿なのか…) 内心逆に相手を馬鹿にしつつも、ヒナタは作り笑いをして、返答した。 「いえ…少し風に当たっていただけです…」 「ほぉ、それはそれは。」 男は厭らしい笑みを浮かべた。 そして、男はその笑みを浮かべたまま、その笑みだけでも十分ヒナタの気に触って いたにも関わらず、更にヒナタの気を逆立てるような言葉を口にした。 「ヒナタ様。日向一族は木の葉の中枢を担う一族。 その一族の長たる者の仮にも長女なのですから、もう少しそれ相応の態度を 取られたら如何ですかな?ましてや、このような宴の最中に席を外されるなどと…。 少しはそれ相応の態度を取られることを勧めますぞ」 男はニヤニヤとした笑みを浮かべて、ヒナタにそう言った。 …その笑みと言葉の内容にヒナタはフツフツと怒りが湧いてくるのを感じた。 そして、静かにクナイに手を掛け… ヒナタはフッと笑みを浮かべた。 …いつもとは違う、どこかゾッとさせるような笑みを… カッ 「何のつもり…サクラ…」 「それはこっちの台詞よ、ヒナタ…」 ヒナタが振り下ろしたクナイは突然現れたサクラによって男の寸前で止められた。 しかし、男はサクラに当て身を喰らわされ、気を失っているようだった。 暫く二人は刃を合わせたまま、ただ睨み合っていた。 お互いに相手の出方を窺っているようだ。 「「フッ…」」 二人は同時に笑みを浮かべた。 先程までの緊張感はどこへやら、あたりには柔らかい空気が流れ、 そして、お互いに何が面白いのか分からないが、なぜか笑みが零れてきた。 しかも、なぜかそれを止める気にはなれず、お互いに笑いが零れるまま、 笑い続けていた。 「全くヒナタったら、一体何考えてたの? いつもの貴方だったら、相手にもしない癖に」 「さぁ、自分でも分かんないわ。 いつもは平気なんだけど、何だか今日に限ってイライラして…」 やっちゃったわ、とヒナタは悪戯っ子のような笑みを浮かべた。 そんなヒナタに思わずサクラはキョトンとし、また声を立てて笑い始めた。 そして、それに釣られたかのように、ヒナタもまた笑い始め、 二人して暫く笑い続けていた。 「それにしても、ヒナタにもそんなことあるのね?」 意外だわ、とようやく落ち着いたサクラは同じくようやく笑いが収まってきた ヒナタに声を掛けた。笑いすぎて涙がでてきた目を押さえながら。 「それは当然でしょ?私だって人間だもの。 あ、でも、この事ナルト君とかサスケ君には言わないでね。 笑われるの嫌だから」 「え〜折角いつも沈着冷静な サクラの目は笑っていた。 …いつもヒナタに良いようにからかわれている身としては、 逆にからかうことができて楽しく仕方ないのだろう。 「ふ〜ん、まぁ、別に良いけど」 ヒナタの顔にはどこかサクラをあざ笑うような表情が浮かんでいた。 「…ヒナタ、何よ、その言い方…」 その笑みにサクラは何か嫌な予感がした。 「ううん、別に〜 サスケ君にこの前サクラこと 持っているとか言ってやろうかな〜なんて思っただけ〜 サスケ君何て言うだろうね〜? 何だかんだ言って優しい人だし、自分に付き合う必要はないとか言って、 暗部を辞めるように勧めたりして」 ヒナタはニッコリ笑ってそう言った。 …サクラの脳裏には一瞬で自分の誕生日についそのことをヒナタに愚痴って しまった挙げ句、ボロクソ言われたのを思いだしたのだ。 そして、もし本当にそのことをバラされた日には本気でサスケが自分に暗部引退を 勧めかねない。しかも、この様子では、ヒナタも一緒になって勧めて来るに違いない。 最後の砦のナルトもヒナタがそうなら…と言って、一緒に勧めてくるだろう。 何と言っても、いつでもヒナタの味方のナルトだ。…全く忌々しい。 「そ・れ・で、どうする?桜葵ちゃん」 「…分かったわよ、黙ってます、黙っていれば良いんでしょう!!」 「そうそうそれで良いの」 「ったく、アンタも例の件黙っておいてよ」 「もちろん」 ヒナタはニッコリ笑って、そう返事をした。 …とりあえず、ヒナタは約束を守る女だ。恐らくバラさないだろう。 ただし、あくまで自分が今回の件を口にしなかったら、という条件付きだが。 サクラは思わず溜め息を吐いていた。 その様子を見ていたヒナタは更に笑みを濃くしていた。 しかし、ふと思ったことがあり、笑みを消し、サクラに尋ねた。 「そう言えば、何でサクラがここにいたの?」 「ん?ああ、今日ヒナタ観月の宴だったでしょ? で、きっとそろそろ抜け出してきてることかな〜なんて思って、 声掛けに来たの。一緒にお月見でもしないって?」 「ああ〜そう言うこと。ちなみに、参加者は?」 「んーとね、サスケ君とナルトとイルカ先生は来るって。 三人とも今日一緒の任務らしいから、それ終わってからになるだろうけど。 後はね、とりあえずテンテンさんかな?」 「…何?そのとりあえずって…」 「いや、あのね、今回の主催者がテンテンさんなの。 何かよく分かんないけど、お団子沢山貰ったらしくて、何なら一緒に食べない? って受付のトコで言われたの」 「あ〜そういうことね!じゃあ、早速行きましょうか?」 「えっ、良いの?もう」 「当然でしょ。こんな所に長居は無用だわ」 「それもそうね」 そう言うと二人はスッと姿を消した。 そして、代わりに残されたのはヒナタの影分身といまだに気絶したままの男だった。 その後、ヒナタの影分身は本体の指示通り、悲鳴を上げた。 そう、酔っ払った男が廊下に倒れており、それにヒナタがビックリしたというシチュエーションである。 ヒナタの計算通り、悲鳴にビックリした一族の者が出て来て、男とヒナタを発見した。 そして、男はすぐに手当されたが、サクラが思いっきり当て身を喰らわせたせいか、 なかなか目を覚まさなかったらしい…。 ちなみに、その夜、ヒナタは大いにお月見を楽しんだらしい…。 でも、それはまた別の話。 後書き |
この度は、スレヒナ同盟開設おめでとうございます! スレヒナスキーとしては、この日が来るのを今か今かと待ち望んでおりましたv そして、この同盟をきっかけに更にスレヒナファンが増えないかな〜と期待しています(笑) 大変だとは思いますが、同盟の運営頑張って下さいませ!応援していますvv |
『A Misty Moon』 櫻雪花 |
素材提供:Simple Life